時には昔の話を語る「名も無い男の初恋物語」

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ジョンです

加藤登紀子さんを聴いていたら、ふと昔の話を思い出しました。

ある女性に、私が一目惚れをした話です。

なんてことない思い出話なんですけどね~。

せっかくなんで、ちょっと物語風にして綴ってみました。

※少々「癖」のある文体ですが、ご了承ください。

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冷めない料理

「サツキちゃん、俺にも何か食べさせてくんない?」

「うふふ、いいわよ。いま何か作るからちょっと待ってて」

甘い声と白く透き通った肌、それだけで男を虜にするには十分過ぎた。しかし、俺がサツキに惹かれたのは、その服装には似つかわしくない育ちの良さが醸し出す上品な匂いだ。

ここにはいろんな奴がいる。男女で盛り上がっているグループもあれば、一人静かに過ごす奴もいる。後ろにいる女たちは昨日観たテレビがどうとか話しているし、向こうでは体力自慢の男たちが何やら競っているらしい。

何をしてもいい。馬鹿騒ぎしたっていい。ここではそれが許される。勿論、ルールが無いわけじゃないが、せいぜい”争い事を起こすな”というくらいなもんだ。もっとも、ここには血の気が有り余った奴も多く、縄張りだの何だのと些細なことで血を流す馬鹿もいるが、俺自身、そんな現場に出くわしたことは数えるほどしかない。

自由……そう、一言でいえば自由だ。明日のことは知ったこっちゃない、今さえ楽しけりゃそれでいい。ここにいる連中は皆、同じ目的で集まっている。今ここにいる時間、この瞬間だけ“限られた自由”を過ごしているのだ。

「ねぇ、一緒に遊ばない?」

何の自慢にもならないが、俺はこの場所で女に誘われることが多々ある。きっと扱いに慣れているからかもしれない。決して乱暴なことはしないし、相手のペースに合わせるのが俺の流儀だ。

ここへ通い始めた頃、女たちは俺のそんな匂いを感じ取ったのか、次々に声を掛けてきては挨拶もほどほどに“お決まりのスポット”で事を始めようする。気が付けば馴染みの顔ばかり。勿論、昨日と今日の相手が違ったって構わない。誰も文句は言わない。ここではそれも自由だ。

この場所で遊ぶようになって半年、俺はサツキに出会った。

初めてサツキを目にした時、彼女は一人黙々と料理を作っていた。俺が声を掛けようか迷っていると、男がちょっかいを掛けている光景が目に入ってきた。

「サツキちゃん、こっちに来て俺と遊ぼうぜ」

「また変なのが来たわ。残念だけど、食事が要らないなら向こうに行ってちょうだい」

慣れた口調で男をあしらい、再び料理を作り始める。そんな毅然とした態度にも俺は惹かれたのかもしれない。ともかく、変な男のおかげで彼女の名前を知れたことは感謝しておこう。

「サツキちゃん、俺にも何か食べさせてくんない?」

彼女に会うのは初めてだが、親しみと馴れ馴れしさの瀬戸際を俺なりに探ってみた。これだけハッピーな人間が集まる場所だ、初対面で名前を呼ばれても悪い気はしないだろう。俺は努めて紳士的に、且つ、正式な客として話し掛けた。さっきの男の二の舞になってたまるか。

たかだか声を掛けるくらいで何を慎重になっているのか。そんなことくらい半年のうちに何度も経験しているはず。いや、彼女はこれまでに遊んだ女たちとは何かが違う。いま思えば一目惚れとはいえ、本気で人を好きになったのはこの時が初めてかもしれない。

「うふふ、いいわよ。いま何か作るからちょっと待ってて」

「何が作れるんだい?」

「そうねぇ……じゃあ私に任せてくれるかしら?」

「Okey-dokey 楽しみに待つとしよう」

数分後、目の前に出てきたものが俺には何の料理かわからなかった。

これは……無国籍というのか?皿代わりの大きな葉の上に、得体の知れない塊が乗っている……。辛うじて横に添えられたものが木の実だということくらいで、後は料理名に繋がるヒントが何もない。

「サツキちゃん……これは何?」

「何って私のオリジナル料理よ。はい、飲み物もどうぞ」

出されたコップには、ドブ水をすくったような液体が入っている……。

普段から珈琲しか口にしない俺でも大抵の飲み物は知っているが、これが何かは見当がつかない。聞けば、これも彼女オリジナルの健康ジュースだという。もしかしたら“健康の有り難さを思い知ることになるジュース”の略かもしれない……。

「き……気が利くね~。きっと良いお嫁さんになるよ」
「本当?嬉しい」

その時の彼女の眩しい笑顔がとても印象的だった。

俺は料理を食べるフリをして、少しずつ足元に捨てた。たとえどれだけの愛情を込められていようが口に入れたいとは思わない。それは沈殿を始めた謎の液体に対しても同じだ。俺はまだ死にたくない。

その後のことはよく覚えちゃいないし、その日以来、俺はサツキの姿を見かけていない……。

あれから数年後、俺とサツキは別の場所で再会していた。

その日、いつものように仲間と馬鹿騒ぎをしていた俺は、視界の端に映り込む女たちの姿が気になっていた。何人かの女は馴染みの顔だが、一人、とてつもなくイイ女がいる。どこかで会ったような気もするが、今どきそんな台詞を口にしても野良猫だって懐いて来やしないだろう。

べつに今すぐ声を掛けたいわけじゃないが、どうにも気になって仕方がない。女は俺のそんな様子に気付いたのか、ゆっくり席を立ち、モンローよろしく周りの視線を拾い集めながら俺の元へと近づいてきた。

「ジョン君、私のこと覚えてる?」

甘い声が微かに記憶を撫でた。俺はこの女を知っている。知っていることは間違いないが、それ以上は何も思い出せない。ただ、女からこの手の質問をされてNOと言わないのが紳士だろう。

「お……おう、もちろん覚えてるよ」

「本当?嬉しい」

この笑顔は……サツキ!

あの時の眩しい笑顔が重なる。その瞬間、今度は息をするのも忘れていた。服装と髪型は違っても、よくよく見れば面影もあの頃のままだ。甘い声と白い肌、上品な匂いは何も変わっちゃいない。

周りの連中は気を遣い、俺たちを残して席を移った。サツキは嬉しそうに二人の思い出を話し始める……。

どうやら俺たちは、あの日以降も何度か遊んでいるらしい。あの場所で姿を見かければ、どちらともなく誘って事に及んだという。時には他の女も混ざっていたというが、俺にとっちゃ珍しい話じゃない。寧ろ、複数を相手にしていることのほうが多かったかもしれない。

ただ残念ながら、これだけ話を聞かされても俺自身の記憶には残っていないというのが事実だ。思い出せるのは、初めて出会った日の出来事ぐらい。まったく、他の女と遊んだことは覚えているというのに……。

その後、俺たちは何度も顔を合わせていたが、もう以前のような関係に戻ることはなかった。たまに会話をすることはあっても、向こうから誘ってくることもなければ、俺から誘うこともない。二人とも、あの頃のような“お遊び”はもうしていない。

そして、いつしかサツキと顔を合わせることもなくなり、長い月日が彼女の記憶を静かに溶かしていった……。

いつだったか風の噂を耳にした。どうやらサツキは結婚したらしい。相手は学生時代の同級生だそうだ。俺が言う筋合いもないが、きっと良いお嫁さんになっていることだろう。

もしかしたら、あの時のオリジナル料理を振る舞っているかもしれない。

今度は“おままごと”じゃなく、本物の料理を。

END

ジョン曰く
幼稚園の自由時間に遊んだ女の子が、小学校で同級生になったんですよ。
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